はじめに
前回のブログでは、「税務調査で慌てないための事前対策|日頃から整えておきたい資料」というタイトルで、日頃から整えておきたい資料について解説しました。
税務調査で重要なのは、請求書や領収書を単に保存しておくことではありません。
- 帳簿の数字と資料が一致している
- 取引の金額や計上時期の根拠を説明できる
- 事業との関係を説明できる
- 必要な資料をすぐに探せる
- 特殊な取引が発生した理由を説明できる
という状態にしておくことが大切です。
税務調査対策は、税務署から連絡が来てから始めるものではありません。
日頃から正確に帳簿を作成し、取引の根拠となる資料を整理しておくことが、最も基本的で有効な対策です。
そこで今回のブログでは、「領収書・請求書・通帳はどこまで必要?税務調査で困らない保存方法」をテーマに、個別書類の保存期間や具体的な保存方法について解説します。
領収書・レシートはどこまで保存する?
経費を計上する場合には、その取引が実際に行われたことを確認できる資料を保存しておくことが重要です。
代表的な資料が領収書やレシートです。
ただ、一概に「領収書を保存してください」と言われても、
「レシートではダメなの?」
「原本じゃないとダメ?」
「無くした場合はどうすればいい?」
など、疑問に思われる方も多いと思います。
そこで、まずは領収書・レシートの保存について解説します。
レシートでも大丈夫?
レシートであっても、
- 日付
- 店名(発行者)
- 取引内容
- 金額
など、取引内容を確認するために必要な情報が記載されていれば、取引の根拠資料として利用できます。
むしろ、手書きの領収書よりも、レシートの方が購入した商品やサービスの内容が細かく記載されていることもあります。
ただし、消費税の仕入税額控除を受ける場合には、インボイス制度の要件についても確認する必要があります。
そのため、「経費として認められるか」という問題と、「消費税の仕入税額控除を受けられるか」という問題は、分けて考える必要があります。
紙の領収書は原本を残す?
紙で受け取った領収書・レシートについては、原則として紙のまま保存しておくのが基本です。
一定の要件を満たしたスキャナ保存を行う場合には、電子データによる保存も可能ですが、単にスマートフォンで撮影したり、PDF化したりすれば、必ず紙を廃棄できるというわけではありません。
そのため、スキャナ保存を利用していない場合には、紙の領収書・レシートをそのまま保存しておく方法が分かりやすいと思います。
感熱紙が消えそうな場合は?
レシートには感熱紙が使用されていることが多く、長期間保存していると文字が薄くなってしまうことがあります。
そのため、
- 光や熱を避けて保存する
- 高温多湿の場所を避ける
- 必要に応じてコピーなどを補助的に残す
といった対策をしておくと安心です。
ただし、コピーを取ったからといって、元のレシートをすぐに処分してよいとは限らない点には注意が必要です。
紛失したらどうする?
領収書・レシートを紛失してしまった場合には、まず再発行できないかを確認しましょう。
再発行が難しい場合には、
- クレジットカードの利用明細
- 銀行の入出金明細
- Web明細
- 交通系ICカードの利用履歴
- 契約書
- 注文履歴
- メール
など、取引の事実を確認できる他の資料がないかを確認します。
そのうえで、支払内容や使用目的などをメモとして残しておくことも一つの方法です。
大切なのは、「領収書がないから出金伝票を作れば大丈夫」と考えるのではなく、まず客観的な資料から取引の事実を確認できないかを検討することです。
また、取引先の冠婚葬祭に出席した場合のご祝儀や香典など、そもそも領収書が発行されない支出もあります。
その場合には、招待状や案内状などを保存し、支払った金額や相手先、支出の目的などを記録しておくことをおすすめします。
請求書はどこまで保存する?
自分が受け取った請求書
仕入や経費などについて受け取った請求書は、取引内容や金額を確認するための重要な資料となるため、保存が必要です。
自分が発行した請求書の控え
自分が発行した請求書についても、売上の根拠資料となるため、控えを保存しておく必要があります。
また、税務調査では請求書だけではなく、
- 納品書
- 注文書
- 契約書
- 工程表・工数表
- 作業報告書
など、請求金額がどのように計算されたのかを確認できる資料についても確認されることがあります。
そのため、請求書だけを保存するのではなく、請求金額の根拠となった資料についても、あわせて保存しておくことが重要です。
PDFで届いた請求書
メールなどでPDFの請求書を受け取った場合には、電子取引データに該当するため、原則として電子データのまま保存する必要があります。
紙に印刷して確認・保存すること自体はできますが、印刷した紙だけを残して元の電子データを削除しないよう注意しましょう。
また、電子データは後から必要な資料を探せるよう、
- 日付
- 取引先
- 金額
などから検索できる状態にしておくことが大切です。
インボイス制度との関係
消費税の仕入税額控除を受ける場合には、原則として一定事項を記載した帳簿と適格請求書等を保存する必要があります。
適格請求書には、主に次の事項が記載されます。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称・登録番号
- 取引年月日
- 取引内容
- 税率ごとに区分した対価の額・適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
また、小売業や飲食店業などが交付する適格簡易請求書(簡易インボイス)については、記載事項が一部異なります。
受け取った請求書等がインボイス制度の要件を満たしていない場合には、仕入税額控除に影響する可能性があるため、請求書を受け取った段階で確認しておくことが大切です。
また、交付した適格請求書の控えや受領した適格請求書等についても、原則として一定期間保存する必要があります。
通帳・銀行明細はどう保存する?
紙の通帳
紙の通帳を利用している場合には、現在使用している通帳だけでなく、繰越済みの古い通帳についても保存しておきましょう。
税務調査では、帳簿に計上されている売上や経費について、実際の入出金と照合されることがあります。
そのため、古い通帳も重要な確認資料となります。
紛失などに備えてスキャンを残しておくことも有効ですが、紙の通帳自体も保存しておくのが分かりやすい方法です。
ネット銀行の明細
ネット銀行を利用している場合には、Webサイトから入出金明細をPDFなどで定期的に取得しておくことをおすすめします。
金融機関によっては、過去の明細をWebサイトから取得できる期間に制限があります。
税務調査が数年後に行われた際に、
「当時の明細がもうダウンロードできない」
ということにならないよう、定期的に取得・保存しておくことが重要です。
個人口座を事業にも使っている場合
個人事業主の場合には、一つの口座を事業とプライベートの両方に使用しているケースもあります。
その場合には、事業に関係する入出金と、プライベートの入出金を区分できるようにしておくことが重要です。
不明な入出金がある場合には、プライベートの取引であっても税務調査で内容を確認されることがあります。
可能であれば、事業用口座とプライベート用口座を分けておくと、日々の帳簿作成だけでなく、税務調査の際にも説明しやすくなります。
クレジットカード明細だけで大丈夫?
クレジットカード明細には、
- 利用日
- 利用先
- 金額
などが記載されています。
そのため、実際にカードを利用したことを確認する資料としては有効です。
しかし、カード明細だけでは、
- 具体的に何を購入したのか
- 消費税率
- インボイスの登録番号
などが確認できないことがあります。
そのため、クレジットカードで支払った場合でも、領収書・レシート・請求書などの取引内容を確認できる資料をあわせて保存しておくことが重要です。
カード明細についても、支払の事実を確認する資料となるため、保存しておくことをおすすめします。
Web明細の場合
Web上から取得したクレジットカード明細については、電子取引データに該当する場合があるため、電子データで保存する必要があります。
また、クレジットカード会社によっては、過去の明細を取得できる期間が限られている場合があります。
そのため、銀行明細と同様、定期的にダウンロードして保存しておくと安心です。
法人カード・個人カードの場合
法人カードで支払ったからといって、すべての支出が法人の経費として認められるわけではありません。
法人の事業に必要な支出であることが、経費計上の前提となります。
一方、個人事業主が個人カードを使用している場合には、事業分とプライベート分をきちんと区分する必要があります。
いずれの場合も、
「どのカードで支払ったか」よりも、「何のために支払ったのか」
を説明できることが重要です。
電子データは印刷して保存すればいい?
現在では、
- PDFで届く請求書
- メール添付の領収書
- ECサイトからダウンロードする領収書
- Web上のクレジットカード明細
- ネット銀行の入出金明細
など、電子データで取引資料を受け取る機会が増えています。
電子帳簿保存法では、国税関係帳簿・書類や電子取引データについて保存方法が定められています。
特に、電子取引によって受け取った請求書や領収書などについては、原則として電子データの保存が必要です。
そのため、
「PDFの請求書を印刷したから、PDFは削除しても大丈夫」
とは考えないようにしましょう。
また、
- 自分で作成した帳簿・書類を電子保存する場合
- 紙で受け取った書類をスキャナ保存する場合
- 電子取引データを保存する場合
では、それぞれ適用される要件が異なります。
電子データを保存する場合には、必要な資料を後から検索・確認できる状態にしておくことも重要です。
何年間保存すればいい?
資料の保存期間は、法人・個人事業主の違いや、帳簿・書類の種類などによって異なります。
大まかな目安は次のとおりです。
| 区分 | 主な保存期間 |
| 法人の帳簿・書類 | 原則7年 |
| 法人の一定の欠損金が生じた事業年度 | 10年 |
| 個人事業主・青色申告 | 原則7年(一部の書類は5年) |
| 個人事業主・白色申告の法定帳簿 | 7年 |
| 個人事業主・白色申告のその他の帳簿・書類 | 5年 |
| インボイス関係 | 原則7年 |
※具体的な保存期間や起算日は、資料の種類や状況によって異なる場合があります。
このように、資料の保存期間については、
「全部5年間保存すればいい」
「全部7年間保存すればいい」
と一律に考えることはできません。
特に法人の場合には、一定の欠損金が生じた事業年度について、帳簿書類を10年間保存する必要がある場合もあります。
また、会社法など税法以外の法律によって保存期間が定められている資料もあります。
そのため、保存期間が分からない資料については、早めに処分せず確認してから廃棄することをおすすめします。
資料を紛失した場合はどうする?
長期間事業を行っていると、
「昔の領収書が見つからない」
「請求書を紛失した」
「昔の銀行明細がダウンロードできない」
ということもあります。
資料を紛失した場合には、まず再発行・再取得ができないかを確認しましょう。
例えば、
- 取引先へ請求書・領収書の再発行を依頼する
- ECサイトから領収書を再取得する
- クレジットカード会社から過去の明細を取得する
- 金融機関から過去の入出金明細を取得する
といった方法があります。
再発行が難しい場合には、
- クレジットカード明細
- 銀行明細
- 契約書
- 注文履歴
- メール
- 納品書
など、取引の事実を確認できる他の資料がないかを確認します。
資料を紛失したからといって、直ちにその取引が否定されるとは限りません。
しかし、税務調査で説明を求められた際には、取引が実際に行われたことや事業との関係を説明する必要があります。
そのため、出金伝票や自分で作成したメモだけに頼るのではなく、第三者が作成した客観的な資料をできる限り残しておくことが重要です。
税務調査では実際にどこまで見られる?
ここまで資料の保存方法について説明しましたが、
「税務調査では、本当に全部の資料を見るの?」
と思われる方もいらっしゃると思います。
税務調査では、通常、すべての取引について請求書や領収書を1枚ずつ確認するわけではありません。
取引の中から確認するものを抽出し、詳しく確認していくことがあります。
気になる取引を抽出して確認する
例えば、
- 決算日前後の売上・仕入
- 金額の大きな取引
- 前年から大きく増減した経費
- 飲食費などの交際費
- 固定資産の購入・売却
- 現金取引
- 業種特有の取引
などが確認されることがあります。
製造業であれば、スクラップの売却収入など、その業種特有の取引について確認されることもあります。
帳簿→請求書→入出金→根拠資料まで確認される
税務調査では、単に帳簿と請求書の金額が一致しているかだけを確認するわけではありません。
例えば売上であれば、
帳簿上の売上
↓
請求書
↓
銀行への入金
↓
納品書・工程表・工数表など
と確認していくことがあります。
仕入や経費についても、帳簿・請求書・支払記録・契約書などを照合しながら、取引が実際に行われたのか、金額や計上時期が適切なのかを確認されることがあります。
私の経験では、特に海外との取引については、実際の入出金まで詳しく確認されることが多いと感じています。
必要に応じて追加資料を求められる
請求書や領収書だけでは、
- 金額の計算根拠
- 計上時期
- 取引の内容
- 事業との関連性
などが分からない場合には、追加資料の提出を求められることがあります。
追加資料を提出できなければ、それだけで直ちに税務上問題になるとは限りませんが、納税者側の説明を裏付けることが難しくなる可能性があります。
だからこそ、日頃から請求書や領収書だけではなく、取引内容を説明できる根拠資料まで保存しておくことが大切です。
まとめ
今回は、「領収書・請求書・通帳はどこまで必要?税務調査で困らない保存方法」をテーマに、個別書類の保存期間や具体的な保存方法について解説しました。
資料によって、
- 紙で保存するもの
- 電子データで保存するもの
- 一定の要件を満たせば電子保存できるもの
など、保存方法が異なります。
また、保存期間についても法人・個人事業主、資料の種類などによって異なります。
そのため、
「とりあえず紙で残しておけばいい」
「とりあえず7年間保存すればいい」
と考えるのではなく、それぞれの資料に適した方法で保存することが大切です。
そして、税務調査を考えるうえで特に重要なのは、単に資料が残っていることではありません。
帳簿の数字について、その取引が実際に行われたこと、金額や計上時期が正しいこと、事業に関係する取引であることを資料から説明できる状態にしておくことが重要です。
私がこれまで税務調査に立ち会った経験からも、普段から帳簿と資料を整理されている会社は、税務調査でも比較的スムーズに資料を提出し、取引内容を説明できることが多いと感じています。
資料の保存方法や会計処理について分からないことがある場合には、決算直前や税務調査の連絡が来てからではなく、普段から税理士に相談しておくことをおすすめします。
次回は、
「税務調査で指摘されても、必ず追加で税金を払うことになるの?」
というテーマで解説します。
税務調査で税務署から問題点を指摘された場合でも、その指摘がそのまま確定するとは限りません。
事実関係や資料、税法上の取扱いを確認したうえで、指摘を受け入れるのか、それとも納税者側として主張すべきなのかを検討することになります。
次回は、「税務署から指摘を受けた後、実際にどのように話が進んでいくのか」について、私自身の税務調査対応の経験も踏まえて解説したいと思います。

コメント